「せっかく作ったのに、美味しくない」「何を食べても、味がしない…」親から投げかけられる、そんな一言。料理を作る気力も、親を想う心さえも、すり減っていくような感覚に陥っていませんか?
介護における「食事」の問題は、終わりが見えない、本当に過酷な闘いです。私の母も、パーキンソン病と認知症の影響で、味覚がほとんどなくなってしまいました。
この記事では、味がしなくなった母のために、私が試行錯誤した食事の工夫と、それでも在宅介護の限界を感じた瞬間について、私の実体験をお話します。
- 味覚障害は、病気や薬の副作用も原因になり得る。まずは医師に相談する。
- 「味」でなく「香り」や「食感」、「見た目」で食欲を刺激する工夫が有効。
- 便利な宅配食事サービスなども活用し、介護者の負担を減らすことが大切。
- 全てを完璧にやろうとしない。介護は「頑張りすぎない」ことが最も重要。
何も言わず食事を終える母に、心が折れた日
母の味覚に異変が起き始めたのは、幻覚の症状が出始めたのと同じ頃でした。一生懸命作った食事を、母は無表情で口に運び、そして何も言わず食べ終わる。それが、せめてもの親心だったのだと、今なら分かります。
良かれと思って味付けを濃くすれば「しょっぱい」と言われ、薄くすれば何も言わず…。だんだんと、私自身が食事の支度をすること自体が、大きな精神的苦痛になっていきました。
私が試行錯誤した、4つの食事の工夫
何とかして母に食べる喜びを取り戻してほしい。その一心で、私が試した工夫は以下の4つです。
- 「香り」を活かす:味覚が弱くても、嗅覚は比較的保たれていることがあります。出汁の香りを強くしたり、生姜や大葉、ゆずなどの香味野菜を使ったりして、「香りで食べさせる」ことを意識しました。
- 「食感」を変える:味が分からなくても、食感は楽しめます。トロトロのあんかけ、シャキシャキの野菜、サクサクの揚げ物など、単調にならないように、一食の中に色々な食感を混ぜるようにしました。
- 「見た目」を華やかにする:人間は目で食事を味わう、とも言います。赤いパプリカや緑のブロッコリーなど、彩りの良い食材を使い、白いお皿に盛り付けるなどして、見た目の「美味しそう」を演出しました。
- 「食卓を囲む」:一人で食べさせるのではなく、できる限り一緒に食卓につき、その日の出来事や昔話をしながら、楽しい雰囲気を作ることを心がけました。
在宅介護の限界を感じた瞬間
これらの工夫で、母が少しでも食事を楽しんでくれる日もありました。しかし、それ以上に、私の疲労は蓄積していきました。仕事から帰ってきて、毎日三食、栄養バランスと彩りを考えた食事を用意するのは、想像を絶する負担というより、不可能に近かったのです。
ある日、私が作った食事を食べていた母が、食事を残すようになりました。母なりの「もう無理しなくていいよ」という気遣いだったのかもしれません。しかし、その優しさが、逆に私の心を締め付けました。「ああ、どうしてしまったんだろう」と。この時、私は初めて本気で「在宅介護の限界」を悟ったのです。
まとめ
今回は、母の味覚障害と食事について、私の試行錯誤と限界の瞬間をお話しました。
- 味覚障害には、「香り」「食感」「見た目」「雰囲気」でアプローチする。
- 介護者の負担を減らすため、外部サービスを積極的に活用する。
- 「頑張りすぎない」ことこそが、介護を長く続ける秘訣。
毎日の食事が苦痛になっているあなたへ。どうか、一人で抱え込まないでください。


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