「固いものが食べられない」「入れ歯が痛いと言って、すぐに外してしまう…」年齢とともに弱ってきやすい口腔問題。親の歯の問題は、日々の食事の準備を、さらに何倍も難しく、そして面倒で憂鬱なものにさせていってしまいます。
私の母もそうでした。歯がほとんどなくなり、新しく作った入れ歯も嫌がってつけてくれない。食事を大変そうに食べている母を見ると胸が痛くなるばかり…。以前のように楽しく、美味しく家族で一緒に食事をしたい。そんな母のために、毎日の食事をどうすればいいのか、本当に頭を悩ませました。
この記事では、入れ歯を拒否した母の食事のために、私がどう苦労したのかという実体験と、見過ごされがちですが非常に重要な、「噛むこと」と「認知症」の密接な関係についてお伝えします。
- 入れ歯が合わない原因は様々。我慢させず、まずは歯医者に相談する。
- 「噛む」という行為は、脳を刺激し、認知症の予防に繋がる重要なリハビリ。
- 歯がない状態でも、調理の工夫次第で「噛む」に近い食感を残すことは可能。
- 訪問歯科など、在宅で受けられる歯科治療サービスも存在する。
入れ歯を嫌がる母、工夫の限界
母は、歯が脆くなり、ほとんど残っていない状態でした。当然、食事は刻み食や、時にはミキサーにかけた流動食が中心になります。しかし、それでは食べる楽しみも、満足感もありません。
歯科医に相談し、新しい入れ歯を作ったのですが、母は「痛い」「違和感がある」と言って、すぐに外してしまいます。入れ歯が自分に合っていても、つけるのが面倒になったり、しばらく着けないでいたために、いざ着けようとするとすでに合わなくなっていたり。何度も調整に通いましたが、状況は改善しませんでした。
なぜ「噛むこと」が認知症予防に重要なのか?
「歯がないなら、柔らかいものだけ食べさせていればいい」そう思うかもしれません。しかし、それは大きな間違いです。「噛む」という行為は、私たちが思う以上に、脳の健康と密接に結びついています。
- 脳の血流を促進する:噛むことで、顎の周りの筋肉が動き、脳へ送られる血液の量が増加します。これにより、脳細胞が活性化します。
- 脳を直接刺激する:歯の根元にある「歯根膜」というセンサーが、噛んだ刺激を脳の神経(三叉神経)に直接伝えます。これが、記憶を司る「海馬」や、思考を司る「前頭前野」を刺激するのです。
- 唾液の分泌を促す:唾液に含まれる成長ホルモンの一種が、脳の神経細胞の成長を助けるとも言われています。
つまり、噛む機会が減るということは、脳への刺激が減り、認知機能の低下に直結する可能性があるのです。母の認知症が進行した一因には、この「噛めない」という問題があったのかもしれないと、私は考えています。また、食事を楽しめないことが増えることで、段々と顔の表情も少なくなっていった気がしています。
歯がない親のための食事の工夫
では、どうすればいいのか。私が試行錯誤した、「噛む」に近い食事の工夫です。
- 歯茎で潰せる硬さにする:野菜を長時間煮込んだり、圧力鍋を使ったりして、歯がなくても歯茎や舌で潰せるくらいの「絶妙な柔らかさ」を目指しました。
- とろみを活用する:細かく刻んだ食材を、片栗粉や葛粉でとろみをつけた「あん」でまとめると、口の中でばらけず、むせることなく安全に食べやすくなります。
- 「食卓を囲む」:食事の内容だけでなく、一緒にその日のことや昔話をしながら楽しく食事をする、その「雰囲気」も大切にしました。
- 「訪問歯科」を検討する:歯医者に通うのが困難な場合、歯科医師や歯科衛生士が自宅や施設に来てくれる「訪問歯科診療」というサービスがあります。入れ歯の調整や口腔ケアをプロに任せるのも、非常に重要な選択肢です。
まとめ
- 「噛むこと」は、脳を活性化させ、認知症の進行を遅らせる可能性がある。
- 歯がない状態でも、調理の工夫で「歯茎で噛む」食事を作ることは可能。
- 通院が困難な場合は、「訪問歯科」というサービスの存在を覚えておく。


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